読書


黒雲の下で卵をあたためる

黒雲の下で卵をあたためる

 小池昌代 ****

>>>ギュンター・グラスの詩に出てきた風景について綴った表題作など、詩人の豊かな感性がひしひしと感じられて心地よい、しずかな抒情にみちたエッセイを収める。『図書』連載「言葉が広げる風景」に書き下ろしを加え単行本化。>>>amazonより

鹿を追いかけて/道について/川辺の寝台/くぼみについて/彫像たち/花たちの誘惑/虎と生活/雑踏の音楽/日々の中の聖性/川から来る風/水の悪意/蝉と日本語/樹木のある風景/杖をめぐって/黒雲の下で卵をあたためる/黒い瞳連詩の時間/かたじけない/詩の不可侵性/ちーくーみーまー/蝿がうなるとき、そのときわたしは/縫い目と銀髪/家について/死者を食う蟹/背・背なか・背後

いいなあ。やっぱり好み。小池さんの詩人らしい意外な思考の行方に、はっとさせられる。ドキドキする。
<言葉というものをささえているのは、死者たちであるといってもいい。そういう意味でいえば、そもそも詩を書くというのは生者と死者の共同作業であるともいえる。<<連詩の時間/本文より
こういう謙虚な考え方はいいなあ。
小池さんはありとあらゆるものを疑うことを知っているひとだ。わたしという自意識さえも。
そういう疑い深さから生まれてくる美しい言葉は、まったくわたしの腑に落ちる感じがする。(感じるだけかもしれないけど)
「道について」というエッセイがいちばん好きだった。小池さんは電車に乗っていて、さっと目に入った知らない道を歩いているもう一人の自分を想像するのが好きなんだそう。>このわたしとはまったく違う人生を持ったわたしが、そこで、生き、暮らしている。>>道について/本文より
わたしもそんなようなことを時々考えることがあるので、なんとなくうれしい気持ちになった。