遠くの声に耳を澄ませて

遠くの声に耳を澄ませて

遠くの声に耳を澄ませて 宮下奈都 ****

くすんでいた毎日が、少し色づいて回りはじめる。錆びついた缶の中に、おじいちゃんの宝物を見つけた。幼馴染の結婚式の日、泥だらけの道を走った。大好きな、ただひとりの人と、別れた。ただ、それだけのことなのに。看護婦、OL、大学生、母親。普通の人たちがひっそりと語りだす、ささやかだけど特別な物語。

女性らしい、こまやかな視点と言葉が良い。耳を澄ませて心を澄ませて感じとりたい一冊。
少しだけ登場人物がリンクする短編集。でもほとんど名前だけなので意味はないような気もする。人物と出来事を少しづつリンクさせると、わくわくするんだけどなあ。
今まででいちばん見事だと思った登場人物がリンクする短編集は、吉田修一の「日曜日たち」。登場人物と出来事を微妙に交差させていくことによって、最後に全体の焦点があうのだ。謎が解けるといってもいい。すごいなあと感心した覚えがある。
まあ、技術的なことはおいといて、この作品は、わたしの心の中のいちばんやわらかい場所にたいせつに置いておきたいなあと思うのであった。