見憶えのある場所

見憶えのある場所

見憶えのある場所 安達千夏 ***

結婚をしないまま、娘・千草を産んだゆり子。スーパーのパート勤めの間、千草は母・菜穂子のもとに。父が出ていったあとに一人暮らす母のいる家は、ゆり子の「見憶えのある場所」だった。千草の姿に重なるように家族の日々と忌わしい記憶が蘇る。母はゆり子と千草の生活にかかわるうちに、次第に常軌を逸していく…。母と娘の確執、それぞれが抱える苦悩を丹念に描く注目の小説。

淡々として緻密な小説だった。「わたしはあなたじゃないのよ、かあさん」と帯にあったのでもう少しドロドロした母子関係が書かれているかと思ったが、そうでもなかった。
理性的で利口な娘と、几帳面で見栄っ張りな母は、本音で相対することができないのだ。
完全なものなど存在しないのに、完全であろうとする母は、形を決め、目に見える枠組みに体や生活を収めていく。家を愛そうとして家庭を壊し、家庭を作ろうとして家族を疎外するなんて本末転倒もいいところだ。でもそうするしかできない人もきっといるのだろう。形や入れ物はたしかに大切だが、こだわりすぎると元も子もない。形や入れ物が人を縛り、自由になれないこともあるのだ。もっともそこから自由を見つけられる人の方が少ないのかもしれないのだな。。